落っこちないように父の背中にしがみついた70ccのバイク | 朝日新聞デジタル&w(アンド・ダブリュー)
つむぱぱの幸せの気づき方

落っこちないように父の背中にしがみついた70ccのバイク

娘の「つむぎちゃん」や、息子の「なおくん」との何げない、ほっこりした日常のイラストをInstagramに投稿する「つむぱぱ」さん。

そんなつむぱぱさんが、みなさんの「家族との、個人的な幸せの思い出」をもとにイラストを描く連載「つむぱぱの幸せの気づき方」。

今回読者さんからお寄せ頂いたのは、朴訥(ぼくとつ)としたお父さんの後ろに乗ったバイクのお話。

>連載「つむぱぱの幸せの気づき方」

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あなたの「家族との、個人的な幸せの思い出」を教えてください。そのエピソードをもとにつむぱぱさんが世界に一つだけのイラストを描きます。採用された方には、つむぱぱさんが描いたイラスト入りのトートバッグをプレゼントします。

 

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神奈川県在住・20代男性

    ◇

つむぱぱイラスト

「さて、今日は何をしようか」
僕のようにこれといった趣味のない人間に、長い自粛生活はつらい。リモートワークといっても、営業職の自分が自宅でできることは限られている。

午前中に同僚と映像ごしに打ち合わせ(というよりもあいさつに近い)をして、クライアントのデータをまとめ、メールを何本か送ったら、ランチタイムを挟んでまたミーティングをするくらい。

物分かりのよい上司には、「こんなときだから、空いた時間には好きなことをしていいよ」と言われているけれど、気になる動画はほぼ見尽くしたし、好きな小説は書き出しを諳(そら)んじてしまえるほど繰り返し読んだ。

今日も仕方なく、散らかってもいない部屋に掃除機をかけていたら、電話が鳴った。

「お父さんがね」と母が言う。危機感のある声色に僕は身構えたけれど、「先週、いきなり会社を辞めたんよ」と続いたので、そんなことかとほっとした。

理由はウマの合わない社長との諍(いさか)いだという。別にいいじゃないか。ひとり息子がとうに手を離れ、家のローンも払い終えたのだから、面白くない職場にとどまり続ける必要はないだろう。

「今日もガレージでバイクをいじってるんよ」と母が父の日常を伝えてくる。

つむぱぱイラスト

父は僕と違って、多趣味なひとだ。僕が小さかった頃、父はアコースティックギターでビートルズの「ブラックバード」を弾いたり、ゴダールとかフェリーニとか、僕には意味がさっぱりわからない古い映画をよくひとりでみたりしていた。

バイクにものめり込んでいた時期があった。あれは確か、僕が小学生の中学年ぐらいだったと思う。70ccの小さなバイクをカスタマイズし、時々気が向いたら「行くよ」とヘルメットを渡してきた。

つむぱぱイラスト

長くもないシートの後ろに乗れということだ。あまり気が進まなかったけれど、なぜか僕はいつも断らなかった。

父が怖かったわけではない。飄々(ひょうひょう)としていて何を考えているかわからないところのある父に、少しでも近寄りたかったのかもしれない。

つむぱぱイラスト

一部のファンに熱烈に好まれそうなそのバイクは、どう見ても二人乗りには向いていなかったし、実際、乗り心地もよくなかった。

実家のある神戸の道には勾配が多く、上り坂ではエンジンが頼りない音を立てながら止まってしまうこともあった。

でも車とは違って、じかに風を感じられるバイクは、ジェットコースターに乗っているようでわくわくした。狭い道を通る時は、落ちてしまわないかと怖くなることもあったけれど。

つむぱぱイラスト

そういえば、以前実家に帰った時に母が話していた。「正直に言うと、家のことを手伝ってほしかったから、お父さんがすぐバイクいじりするのが嫌やってん。でもお父さんが、あんたが『バイクに乗りたがっとる』って言うから、しぶしぶ許してたんよ」

つむぱぱイラスト

そんなことは一度も言っていないはずだが、否定はしなかった。父の趣味の言い訳に使われていたのか、父は本当に僕がバイクに乗るのが好きだと思っていたのか。どちらでもいい。いずれにせよ、あのつかみどころのない父が少しだけ近くに感じられたような気がした。

今度、実家に帰ったら、僕もガレージで父のチューニングを手伝ってみたい。そして自分にも愛車ができれば、休日に時間を持て余すこともなくなるかもしれない。

いつか、実家まで長いツーリングにも出かけてみるのもいいだろう。着いた次の日あたりに、「行くよ」と言ってヘルメットを渡すのは僕の番だ。そのとき、父が少し笑ってくれるといいのだけど。

つむぱぱイラスト
(文・構成/井川洋一)

つむぱぱさんの言の葉

僕の父親は、とても「破天荒」な父親でした。よく言うと、自分に正直に生きていて、楽しいこと、好きなことに最短距離で向かっていくような性格をしていました。

なのでこのお父さんの、でまかせを言ってでも、自分の趣味を優先してしまう感じは、よくわかります。もっとも、僕の父親は子供を言い訳に使うまでもなく、好き勝手に遊んでいたので、よく母は許したものだと、今では感心してしまいます。

一方で、僕は割と常識的で、ちゃんと空気を読んで生きていますので、どちらかというと、このエピソードのパパに近く、子どもを言い訳に利用することもあります。例えば、視界にアイス屋さんが見えて、食べたいなぁと思ったら、わざと近くに行って娘に「パパ、アイス食べたい」って言わせる、とか。

こうやって文字にすると、自分がかなりスケールの小さい男のような気がしてきます。

>>前回の「つむぱぱの幸せの気づき方」 夕暮れの商店街で父と食べた、秘密のソースかつパン

つむぱぱ

娘「つむぎちゃん」、息子「なおくん」との日常をInstagramで、ほっこりとしたイラストで表現し、子育て世代を中心に幅広い人気を誇るインスタグラマー。Instagramアカウントのフォロワーは、60万人を超える。

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夕暮れの商店街で父と食べた、秘密のソースかつパン

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秘密まで溶かす、祖母と食べた甘いケーキ

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